ドイツ留学記録

2016年4月から半年間、ドイツ留学した。ミュンヘン工科大学のProf. Gordon Chengの研究室で、Marie Curie奨学金を受け取りながら触覚系のプロジェクトに採用して頂いた。リーディングプログラムから旅費も出る。この待遇は、金銭的にもキャリアパスとしても、とてつもなく良い。リーディング大学院の海外インターン要件3ヶ月も、余裕で達成できる。外国での研究経験もできる。幸運にも、至れりつくせりの支援を受けることができた。

財源はMarie Curie奨学金GCLだった。Marie Curie奨学金は、EUが全世界に募集をかけている奨学金である。このうち、Initial Training Networksという、博士学生向けの教育プログラムを利用していた。これは、奨学金の申請を学生が行うのではなく、指導教員が書類を書くのが特徴である。また、奨励金の金額が非常に多いことで有名である。具体的には、月収38万円(115円/ユーロ)だった。

 

事の発端は、M1の終わり頃に行った、卒論の英語デモだった。これが、その時の聴衆にいたアジア系の人にめっちゃウケた。この人がProf. Gordon Chengその人だったのだが、そのことは当時知らなかった。その後、M2の9月くらいにボスに呼び出されて、僕がProf. Gordon Chengから半年ドイツで研究をしないかと誘われている、と伝えられた。この時点で、留学のための奨励金も、東大のリーディングプログラムとの連携も万全、という状態だった。僕の知らないところで全てが整えられていた。正直、何が起きているのか全くわからなかった。

 

留学前の2015年9月から3ヶ月間、英会話をRare Jobで2日に1回学んでいた。修士論文と被りまくっていたが、英語の訓練は避けてはいけないと思って、修論提出2ヶ月前まで英会話を続けた。この効果はかなり大きく、留学直後の事務作業で、英会話で問題を起こすようなことはなかった。しかし、研究のディスカッションとなると全く話は別だった。深い議論ができなくて困るというだけではなく、色々な国籍の人の英語の「癖」に翻弄された。ロシア人の英語は今も全く聞き取れない。口語的に大量のリエゾンを混ぜてくるメキシコ人も、すみませんがゆっくり喋ってくださいと言わざるを得なかった。

 

研究そのものは、本当に冷や汗ものだった。初めはロボットを使って一発芸+解析をしようとしたのだが、いろいろな理由で無理だったので、6月から路線変更を強いられた。その後、修士論文から興味があった、動力学+制御の論文をひたすら読み漁っていた。古典かつ最高成績を誇る論文が分割統治法を利用していることもあり、競技プログラミングアルゴリズムを勉強することに決めた。しかし、この路線変更がうまく行かない可能性を考えて、ロボットはキープしていた。ロボットをずっと専有していることもあって、本来なら結果が出ていなければならない7月(3ヶ月目)での研究会では、周囲からの目が非常に厳しかった。

この後、2016/8/15くらいに、個人的に実用的で良さそうなアイディアがやっと出た。その後サーベイで先行研究と応用先を洗い出して、2016/8/25から2種類の手法の実装をし始めた。この後、2016/9/2に日本のボスに報告した。そうしたら、違う人からかなりネガティブな意見をもらって、やる気を消失し、ラスト1ヶ月の重要な時間を1週間くらい呆然と過ごしていた。その後、やる気を取り戻して2016/9/10に2つの結果をProf. Gordon Chengに見せたら、気に入ったと言われて、そのうち1つを2016/9/15締切の査読付き国際学会のICRAへ出すように指示された。その後、日本のボスにすぐ投稿許可を投げた。そうしたら、違う人からかなりネガティブな意見をもらって、やる気を消失し、投稿5日前の重要な時間を2日くらい呆然と過ごしていた。その後、やる気を取り戻して、頑張って論文を書いて投稿した。その後1週間くらい頑張ったら、A4にして22ページくらいの研究報告書が書けるくらいの分量の伝えたいことができた。

研究発表は、触覚系プロジェクトが主催するワークショップと最終ミーティングで行った。7月にロンドンのImperial Collegeで行われたEuro Haptics 2016のWorkshopで修士論文の報告をした。9月29日には、スコットランドのGlasgow Universityでドイツで行った研究を発表した。実は9/30に日本に発つつもりだったので、このミーティングには参加できないはずだった。しかし、このミーティングにはとにかく参加したかったので、飛行機の日程変更をしたり急にミーティング参加人数を増やしてもらったり、とにかく色んな人に迷惑をかけて何とか参加できることになった。

 

留学前後での、英語力の上がり方は微妙だった。スピーキングは頭をフル回転させれば言いたいことがほぼ言えるようになった。しかし、やはり脳内で構文解析しないといけないし、英語での議論はどうしても浅くなる。リスニングは「綺麗なQueen's English」以外の英語の癖に少し慣れた。綺麗な英語のリスニング能力もかなり上がった。どちらかというと、大量のメールを処理しなければならないので、Writingのスピードがめちゃくちゃ早くなったと感じている。もしかするとタイピングの速度が上がっているだけかもしれない。

リスニングの方が大変かつ重要だと感じた。聞こえないとコミュニケーションにならず、意味不明な返答をしてしまう。特に、質疑で英語がわからないと本当に困る。どうしても、自分がしゃべる英語から遠い英語は全然聞き取れない(逆に僕はアメリカ英語を喋っているので、MITの研究者とかはものすごく聞き取りやすい)。速いのも無理。自分が使わない慣用表現が入ると、聞き取れても意味不明なので、知らない単語は使っていくしかないなと感じた。今後はリスニングを重視していこうと決意した。

 

宿は2016年3月に、全てAirbnbで確保した。大量のトラブルがあったが、結果的にこれは良い選択だった。最大のメリットは、水道代電気代インターネット代支払いや生活必需品管理その他もろもろの管理を外注できることである。賃貸の相場より1万円程度高いが、完全にこれらのメリットが上回っていると感じた。あと、人と話せる。

 

研究者の間での日本のイメージは悪化してきている。最近のロボットのイニシアティブはアメリカ・韓国・中国に奪われている、という話をロシアのD1学生がしていた。逆にイギリスでは、日本は電気系とゲームとロボットが強い、と思われていてびっくりした。

アジア人っぽいなーと思うとほとんど中国人という感じで、月並みだが危機感を感じた。例えばエラスムス・ムンドゥス奨学金では、中国人が101人/1950人通っているのに対し、日本人は5人/23人しか通っていない、というかそもそも申請していない。さすがに申請率1%はどうなの。

 

ドイツは治安が非常に良く、人も優しかった。いいところ。

ドイツは親日的で、日本人はレアキャラ扱いされた。アニメが好きな人が多いらしく、酒場で3人くらい進撃の巨人の話をされた。始めAttack of Titanって何の話だと思っていた。どうやら、名前をドイツ人の名前から取ってきているのが好感らしい。

ドイツ料理はかなりパワフルで、繊細さのあるものは少ないが、美味しいものは美味しい。肉や調理法でオリジナリティを出す店は少なく、グレービーソースにこだわっているところが多かった。個人的にはHofbraue houseのBearbratelという料理がおすすめ。あとLoewen Braueはソースがおいしく、スペシャリティはおすすめ。